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2006年12月21日

砂の女

私は高校生の頃から安部公房の小説が好きで
その入り口となったのが彼の代表作ともいえる「砂の女」でした。

そこに描かれているのは極めて不条理な世界。
その不条理な世界を、具体的で的確な比喩表現を用いて
実際に存在しているかのように錯覚させる
麻薬のような文章がこの作品の魅力のひとつです。

その「砂の女」がずいぶん前に
映画化されていたということを知ったのが大学生のとき。
上映されるという情報をつかむや否やすぐに観に行きました。
「絶対にあの世界を映像化できるはずがない」
女子大生が生意気にもそんなことを考えながら
映画館に足を運んだのです。

衝撃でした。

砂の穴の中のむせ返るような暑さと湿気。
「焦り」が「諦め」に変わってゆく過程。
銀幕には小説とまったく同じ世界が広がり、
あらゆる場面が、そして登場人物が
小説で味わった、あの独特の陶酔感を再び与えてくれたのです。

主人公を砂の穴に引きずり込み、
共に生活する女性を演じていたのが若き日の岸田今日子さんでした。
この映画を観てから、「ムーミンの声の人」程度だった認識が
ガラリと変わったものです。
圧倒的な存在感。妖しさと艶めかしさ。
こういう仕事をする人を「女優」と呼ぶのだなあと目が覚めた思いでした。

その岸田今日子さんが亡くなりました。
心からご冥福をお祈りいたします。

訃報を伝えるワイドショーで
「砂の女」の映像が何度も繰り返し流れていたので
こんな話を思い出したのでした。

もう一度観たくなったので、DVDを買うことにします。